「乾癬治療におけるバイオシミラーの役割と期待」
乾癬は難治性の皮膚疾患で、患者さんに多大な精神的ストレスをもたらします。その乾癬の治療に大きな変革をもたらしたのが、バイオ医薬品です。乾癬の適応症を有するバイオ医薬品が初めて承認されてから16年が経過し、バイオシミラーの使用も始まっています。今回の対談では、乾癬治療の第一人者である、名古屋市立大学大学院医学研究科 加齢・環境皮膚科学 主任教授(現・名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 病院長、名古屋市立大学大学院医学研究科 教授)森田明理先生をお招きし、乾癬治療の現状とバイオシミラーの役割などについて伺いました。
(対談日:2026年3月23日)
膚だけでなく全身にも影響を及ぼす乾癬
バイオ医薬品が治療のパラダイムシフトをもたらす
黒川 本日は、皮膚科診療の第一線でご活躍されている森田明理先生をお招きし、乾癬治療の現状とバイオシミラーの役割などをお伺いしたいと思います。はじめに乾癬とはどのような疾患なのか、教えていただけますでしょうか。
森田 乾癬は、免疫の異常が原因で発症する慢性炎症性疾患で、炎症性角化症という疾患の種類に分類されます。炎症性角化症とは、皮膚が炎症を起こし、表皮の一番外側にある角質層が過剰に蓄積して厚く硬くなる疾患の総称です。乾癬にはいくつかの種類がありますが、約90%を占めるのが尋常性乾癬で、特に頭皮や肘・膝などに赤い盛り上がりのある皮疹が多発し、皮疹の表面には鱗屑(りんせつ)と呼ばれるフケのようなものが付着し、ボロボロと剥がれ落ちます。患者さんにとっては、外見上から、たいへんな精神的ストレスを伴います。個人差はありますが痒みを伴い、掻くことで症状が悪化したり、不眠の原因になったりします。さらに問題となるのは、関節炎、心筋梗塞、慢性腎臓病などの疾患を合併するリスクが高くなることで、寿命にも影響することが明らかになっています。
発症原因は明らかになっていませんが、乾癬を発症しやすい遺伝的な体質があり、そこに精神的ストレスや生活習慣などの環境因子が加わることで発症すると考えられています。
また、患者数については疫学調査を進めている途中で、現時点では推計となりますが40〜50万人程度と考えられています。
黒川 患者さんはさまざまなストレスにさらされていることが分かりました。またさらには乾癬以外の疾患リスクを高めるとのこと、全身に影響を及ぼす疾患ということも分かりました。治療には、どのような方法や選択肢があるのでしょうか。
森田 治療には、外用薬、光線療法、経口薬、バイオ医薬品(生物学的製剤)があります。外用薬は乾癬治療の基本であり、すべての患者さんが一度は行う治療法です。光線療法は、紫外線を皮膚に照射することで免疫の働きを抑えて症状を改善する治療法です。有効な治療法ですが、照射は医療機関でしか行えないため、週1~2回の通院が必要となります。経口薬は、1980年代から使われている薬から近年承認された薬まであり、薬剤ごとに異なる機序で症状を改善します。そして、乾癬治療にパラダイムシフトをもたらしたのが、バイオ医薬品です。
黒川 バイオ医薬品は具体的にどのような成果をもたらしたのか、教えて戴けませんでしょうか。
森田 2000年代までは治療法が限られており、また副作用のために薬を長期間投与できないなど、治療に苦慮する患者さんが多くいました。これを大きく変えたのが、関節リウマチなどの治療薬として承認されていたTNF-α阻害薬と呼ばれるバイオ医薬品で、乾癬に対しては2010年に承認されました。この薬剤は、皮膚の炎症を引き起こす原因の体内物質であるTNF-αと呼ばれる炎症性サイトカインの働きを抑えることで、強力に症状を改善します。現在では、TNF-α以外にIL-12/23(p40)、IL-17Aなどの炎症性サイトカインの働きを抑えるバイオ医薬品が10成分以上承認されています。これらのバイオ医薬品により、本当に多くの患者さんが、症状を良い状態にコントロールできるようになりました。また、乾癬のなかには、乾癬性紅皮症や膿疱性乾癬と呼ばれる、非常に症状が激しく、ときに生命に関わることもある乾癬があるのですが、これらに対しても効果を示し、症状の改善にとどまらず、生命を救うこともできる薬剤と言えます。
黒川 バイオ医薬品が多くの患者さんに福音をもたらしたということで、大変うれしく思います。症状を良い状態にコントロールできるようになったとのことですが、ここで具体的な治療目標について教えていただけますでしょうか。
森田 乾癬の重症度評価として、PASI(パシ)と呼ばれる指標があります。これは、紅斑、浸潤、落屑という3つの徴候の程度と症状の範囲によって点数化する指標です。治療によって、PASIが75%改善したもの、簡単に言えば治療前から症状が75%改善したものをPASI 75と呼び、長年治療目標とされてきました。ただ、この目標を達成できても、皮膚症状はまだ残っている状態となります。有効性の高いバイオ医薬品が使える現在では、さらに症状が改善されたPASI 90やPASI 100が治療目標となっており、症状がほぼ消失あるいは完全に消失した状態を目指せるようになっています。
黒川 乾癬は治療に難渋する病気という印象を持っていましたが、いまや症状が消失した状態を目指せるようになっているというのは大変な驚きです。
次の治療目標は「バイオフリー」の達成
バイオ医薬品不適応例、医療アクセスなども課題
黒川 症状が消失する状態を目指せるようになってきた現在、これからの乾癬治療の課題はどのようなものでしょうか。
森田 いくつか課題はありますが、一つは治療の出口戦略で、バイオ医薬品を中止しても症状が悪化せず良好な状態を保てる「バイオフリー」と呼ばれる状態を達成することです。さまざまな方法でバイオフリーを目指した研究が進んでおり、有力視されているのが、発症早期からバイオ医薬品による治療を行う方法です。この方法が有効かどうか判明するにはしばらく時間がかかる見込みですが、期待したいと思います。また、バイオフリーに至らなくても、1年に1回あるいは半年に1回の投与で効果が得られるような薬剤が登場すれば、患者さんの通院負担も大きく軽減し、QOL(生活の質)はあがるでしょう。
一方で、ほかの疾患を合併しているなどの理由でバイオ医薬品を使えない患者さんがいます。このような患者さんに対する治療法は大きな課題です。
黒川 バイオ医薬品の使用が難しい患者さんも一定数おられること、また投与間隔が一層伸びることになれば有りがたいなど、まだまだ解決すべき課題があることが分かりました。
森田 投与という点では、医療アクセスの格差も課題です。バイオ医薬品の治療を受けられる医療施設が限られている地域もあります。どの地域でもバイオ医薬品の治療を受けられる環境の整備が望まれ、オンライン診療がもっと広がれば、解決されていくのではないかと思います。
また、バイオ医薬品のような効果の高い薬剤の普及は、医療体制に変化をもたらす可能性があります。
黒川 医療体制の変化とは、どういうことでしょうか。
森田 これまでは、軽症例や中等症例はクリニックで、重症例や難治例は病院で治療という体制でしたが、バイオ医薬品のような効果の高い薬剤の登場により、クリニックでも多くの患者さんの治療が可能となりました。実感としても、重症例や難治例で病院に来られる患者さんは減っています。また、生活環境の変化か、少子高齢化の影響かはわかりませんが、若い乾癬患者さんも減っているように感じています。これらのことは、患者さんにとっては好ましい変化といえる一方で、病院の役割はこれまでとは変わる必要があり、病院経営にも大きな影響が出てくる可能性があります。
黒川 病院の経営状態についてはニュースでも報道されるようになり、一般の方々も耳にする機会が増えています。民間病院の6割、公立病院に至っては8割以上が赤字という衝撃的なお話しもあります。
森田 本当に病院経営は苦しくなっています。私が懸念しているのは、経営が苦しくなればなるほど、利益を優先した医療機関があらわれてしまうのではないかという点です。薬で言えば、A薬とB薬があり、病院の収益がより大きいのはB薬だった場合、B薬を優先的に処方してしまうようなことです。経営のために、患者さん本位の医療が崩れてしまうことを危惧しています。
黒川 最近の物価高が加わって、病院経営はさらに厳しくなっていると伺っています。病院が持続可能でないと医療アクセスが悪化し、国民の皆さんに多大な影響を与えてしまいます。
森田 経営努力は必要ですが、超えてはいけない一線がありますので、そういう医療機関があらわれないことを願っています。そのうえで感じているのは、薬剤選択において有効性だけに偏った判断では不十分になってきているということです。新薬、ジェネリック医薬品、バイオシミラーには、それぞれに特性があります。それは効果の強さだけでなく、経済的なメリット、治療を長く続けられるかどうか、高齢の患者さんでも使いやすいかなどといった点も含まれます。こうした特性を深く理解したうえで、目の前の患者さんにとって何が最善かを考えられる医師や薬剤師の存在が、今まで以上に重要になってくると感じています。
バイオ医薬品の課題とバイオシミラーの選択
黒川 バイオ医薬品が乾癬治療に大きな成果をあげた一方で、バイオ医薬品は共通して薬価が高いことが指摘されています。
森田 バイオ医薬品の登場前と比べて、乾癬の医療費はかなり高くなっていると思います。医療費の高額化は、国の財政だけでなく、健康保険組合の財政も厳しくしており、医療費の適正化は不可欠です。
黒川 バイオシミラーはその面でもしっかり貢献できるのではないかと考えています。
森田 バイオシミラーは先行バイオ医薬品と同一ではなく同等・同質であることから、承認当初は、先行バイオ医薬品との同等性や先行バイオ医薬品からの切り替えについて懸念がありましたが、エビデンスも実績も蓄積されてきました。バイオシミラーは、効果や安全性が科学的に検証されたうえで承認されている医薬品です。したがって、医学的に同等であれば、「コストの安い代替品」ではなく、「適切な治療選択肢の一つ」として積極的に考えてよい存在だと思います。
黒川 ありがとうございます。しかし、バイオシミラーへの置き換え率には薬剤によって差があり、例えば悪性腫瘍領域で使われるバイオ医薬品の置き換えは進んでいますが、自己免疫疾患領域で使われるバイオ医薬品の置き換えはあまり進んでいません。
森田 乾癬のような免疫系の慢性疾患では、症状が安定している患者さんに対して、あえて薬剤を変更することに慎重になるのは理解できます。その慎重さ自体は、患者さんのことを第一に考えている証拠だと思います。しかし先程お話ししましたように、切り替えに関するエビデンスや実臨床での経験も蓄積されており、懸念される点は払拭されてきていると思います。
黒川 エビデンスの蓄積という面では、製造販売業者による市販後調査や海外での臨床研究など、さまざまな形で有効性と安全性の検証が進められており、日本バイオシミラー協議会のホームページでも情報発信しています。
森田 あとは、ジェネリック医薬品と同じように、バイオシミラーを選択することによる診療報酬上の加算が必要かと思います。国民医療費を抑制するという意義は理解できますが、特に病院経営が厳しい今、バイオシミラーを処方することによる経営上のメリットは必要不可欠でしょう。
黒川 バイオ後続品導入初期加算など、バイオシミラーに関する加算も導入されてきました。こういった制度的後押しが今後も拡大、充実されていくことを期待しています。
森田 普及が進まない別の要因として、バイオシミラーが存在しない比較的新しいバイオ医薬品が処方されているのかもしれません。新薬開発により、より高い有効性を示すバイオ医薬品も登場していますが、医師は有効性だけにフォーカスするのでなく、それぞれの薬剤の特徴や特性を深く理解し、治療の継続可能性などにも配慮し、目の前にいる患者さんにとって何がベストな選択になるかを見極めて処方する。これは皮膚科医の腕の見せ所です。その見極めが進めば、バイオシミラーを選択する機会も増えるのではないでしょうか。
黒川 たくさんある薬剤のなかから患者さんごとに最も適切な薬剤を選択するというお話しでしたが、最近では使用が推奨される医薬品を提示する「地域フォーミュラリ」が注目されています。地域フォーミュラリに乾癬治療を組み込むのはいかがでしょうか。
森田 地域フォーミュラリは、高血圧症や糖尿病などの患者数の多い疾患であればよいと思います。地域で使用する薬剤をある程度集約することは、流通の改善にも繋がるでしょう。しかし、乾癬のような患者数が少ない疾患に対しては難しいと私は思います。
黒川 まずは患者数の多い疾患を対象に地域フォーミュラリが普及し、その後に乾癬のような疾患でも適応できるか検討していったほうが良さそうですね。
ほかに、私たちが抱えている課題として、患者さんのバイオシミラー認知率が2~3割程度と低いことがあげられます。
森田 そんなに低いのですか。私の実感ではもっと認知されている印象です。
黒川 森田先生の外来を受診される患者さんは、乾癬の最先端の治療を受けたいという方が多いため、そもそも病気や治療、医薬品などについてよく勉強されている方が多いのかもしれません。
森田 患者さんによって情報の差はあると思います。一般の方々に広くバイオシミラーを知っていただくのは難しいと思いますし、そこまで必要なのかは分かりませんが、少なくともバイオ医薬品の治療を受ける患者さんには、バイオシミラーという選択肢があることを知っていただくことは必要だと思います。高額療養費制度も見直しされることになっており、患者さんの自己負担は今後増える可能性があります。そうした中で、治療効果を維持しながら治療の継続性を確保できるという点で、バイオシミラーは患者さんにとって現実的で重要な選択肢になっていくと思います。
黒川 バイオシミラー協議会では、バイオシミラーについて解説する動画などを作成しています。
森田 そういったツールがもっと有効活用されるよう、ぜひ宣伝していただければと思います。
黒川 認知率を高めるような策について、何かアドバイスなどございませんでしょうか。
森田 秘策のようなものはなく、医師や薬剤師にバイオシミラーのエビデンスをしっかり届けていく地道な活動の継続が大切であり、そういった活動を通じて、患者さんにもバイオシミラーという選択肢があるという認知が高まってくるのではないでしょうか。効率面から患者数の多い都市部に偏りがちですが、医療アクセスに格差が生じないように、地方でもしっかりと活動していただきたいと思います。
黒川 肝に銘じて活動していきたいと思います。本日は、示唆に富むお話をお伺いすることができました。ありがとうございました。
<日本バイオシミラー協議会からのメッセージ>
バイオシミラーは、医療費適正化のためだけでなく、医師・薬剤師がエビデンスに基づく患者本位の治療を継続するための重要な選択肢です。本対談が、日常診療や薬剤選択を考える際の一助となれば幸いです。
●森田 明理(もりた あきみち)
略歴
1989年 名古屋市立大学医学部医学科卒業
1990年 名古屋市立大学大学院医学研究科(博士課程・愛知県がんセンター研究所免疫部)
1994年 名古屋市立大学医学部助手
1995−1997年 独デュッセルドルフ大学皮膚科(独フンボルト財団奨学研究員)
1997−1998年 米テキサス大学サウスウエスターンメディカルセンター皮膚科
1998年 名古屋市立大学医学部講師
2001年 名古屋市立大学医学部助教授
2003年~ 名古屋市立大学大学院医学研究科 教授
2015年1月〜2026年3月 名古屋市立大学病院 副院長
2025年4月〜2026年3月 名古屋市立大学 副学長
2025年4月〜2026年3月 名古屋市立大学病院・救急災害医療センター長
2026年4月〜 名古屋市立大学医学部附属西部医療センター 病院長
●黒川 達夫(くろかわ たつお)
1973年千葉大学薬学部卒業後、厚生省(当時)入省。薬務局 監視指導課等を経て、WHO職員。その後、科学技術庁、厚生省大臣官房国際課、新医薬品課、安全対策課長、大臣官房審議官等を歴任、2008年退官。その後千葉大学大学院薬学研究院特任教授、2011年より慶應義塾大学薬学部大学院薬学研究科教授。2016年より日本バイオシミラー協議会理事長。博士(薬学)。
